2010年5月アーカイブ

英語代筆クラブ式字幕翻訳

| コメント(0)

ここでは、劇上映画の字幕翻訳を例にしましょう。

英語代筆クラブ式字幕翻訳の仕事は、翻訳を担当する映画の試写から始まります。

この段階では当然、映画には日本語字幕は入っていません。

したがって、翻訳家はもらった台本を片手に映画の内容や雰囲気をつかみながら、字幕の切れ目を確認していきます。

同時に字幕の切れ目となる箇所を斜め線などで台本に書き込んでいきますが、この作業を「ハコを切る」と呼び、ひとつの字幕として翻訳される部分を「ハコ書き」といいます。

「ハコ書き」が終わった台本は、ラボ(フィルムに字幕を打ち込む印字会社)に回され、ラボでは台本を元にスポッティング・リストとというものを作成します。

スポッティング・リストとは、「ハコ書き」のセリフがどのくらいの長さで、映画のフィルムのどの部分に入るかを一覧にした表のこと。

英語代筆クラブ式字幕翻訳にとって、非常に重要なツールといってよいでしょう。

ここまでは、いわば下準備の段階。

スポッティング・リストを受け取った時点で、いよいよ字幕翻訳の仕事がスタートします。

まずは、スポッティング・リストに示されている数字から、ひとつの字幕に入れられる字数を換算しなければなりません。

字幕翻訳の場合、タテ書きであれば1行10字、最大2行で20字まで、ヨコ書きであれば1行13~14字、最大2行で26~28字までと、ひとつの場面に入れられる文字数が決められており、どんなセリフであろうと、この字数内に収まるように翻訳していかなければならないという制約があります。

いうなれば、字数制限を考慮しつつ、制限された字数内でいかにピタリとはまるセリフに翻訳していくか、これが字幕翻訳家の最大の仕事であり、最も苦しむ点であると言えるわけです。

翻訳がひと通り終わると、次に翻訳原稿と照らし合わせながらフィルムを見る「中間試写」を行います。

ここで、映画の各場面とセリフを合わせながらチェックし、手直しを入れ、最終的な翻訳原稿を仕上げていきます。

仕上げられた翻訳原稿はラボに回され、タイトル・ライターと呼ばれる専門職の人の手によって、手書きの字幕カードにされていきます。

字幕カードはさらにフィルムに焼き付けられて、日本語字幕の入った映画となります。

この字幕の入った最初の映画が「初号プリント」で、「初号プリント」の試写は「初号試写」と呼びます。

英語代筆クラブ式字幕翻訳家の仕事は「初号試写」まで。

「初号試写」が無事に終了すると、映画は劇場用映画として公開されていきます。

劇場用映画の場合、スケジュールはすべて映画の公開時期に合わせて進められていきます。

したがって、翻訳に必要な期間も、映画の公開日に間に合うように設定していかなければなりませn。

通常、翻訳に割ける時間は1週間程度ですが、中には4日で仕上げなければならないというケースもあります。

メディア翻訳の場合、どのメディアの翻訳を行うのかによって受注先が異なるほか、実際の翻訳作業の進め方も違ってきます。

そこで、簡単ではありますが、以下にメディア別の主な仕事の流れをご紹介しておきましょう。

■映像
映像の中の映画のジャンルに関しては、字幕と吹き替えの2通りの翻訳作業があります。

「翻訳をする」という点については同じ作業なのですが、字幕と吹き替えでは言葉の使い方や字数制限、どこでセンテンスを切ってひとつのセリフにするかなど、細かな部分で若干注意するポイントが違っています。

また、映画には劇場映画とビデオ、テレビ放映用映画という分け方もありますが、基本的には納期までの時間が異なる程度で、翻訳手法そのものについてはあくまで字幕か吹き替えかの違いしかありません。

映画の仕事は、劇場映画であれば映画配給会社、ビデオ用映画であればビデオソフトメーカーから依頼を受けた日本語版制作会社、テレビ用映画であればテレビ局から依頼された日本語版制作会社が、フリーランスの翻訳家に翻訳をお願いするという流れで発生していきます。

したがって、翻訳家から見ると、主に映画配給会社か日本語版制作会社から仕事を受けることになります。

では、字幕と吹き替えではどのように翻訳作業が異なるのでしょうか。

出版翻訳の受注から納品まで

| コメント(0)

出版翻訳の場合、翻訳家に仕事が依頼されるまでの流れをまとめると次のようになっています。

まず、著作物については「著作権」というものがあります。

ある出版社がある著作物を日本でも出版したいと考えたとき、出版を希望する出版社は著者に「出版してもいい」という許可をもらわなければなりません。

この「出版してもいい権利」のことを版権と呼び、版権は一冊の本に対して一社しか持てないことになっています。

しかし、版権を得る手続きは非常に煩雑で、細かな神経を必要とします。

そこで「版権エージェント」と呼ばれる版権を売買する専門会社が著者と出版社の間に立ち、仲介役を担っています。

また、版権エージェントは単なる手続きの仲介役だけではなく、海外出版物に関する広範な情報網を生かし、海外著作物の売り込みや紹介も行っています。

したがって、出版翻訳の世界では大抵、この版権エージェントから出版社に対して「日本で出版しませんか?」という売り込みや紹介が行われるところから仕事が発生しています。

版権エージェントから著作物を紹介された出版社は、その著作物が売れるかどうかを判断するための材料として、原書の粗筋をまとめるリーディングという作業を行います。

リーディングは「売れる本か否か」を判断するうえでの大事な判断材料となるため、出版社によっては専門のリーダーと呼ばれる人たちを置いているところもあります。

ただし、新人の翻訳家が担当するケースもあり、リーディングが新人出版翻訳家にとって重要なデビューの場となっている場合も少なくありません。

リーディングを依頼された翻訳家は原書を読み込んで全体の流れと作品のツボをまとめ、感想を添付した「レジュメ」というものを出版社に戻します。

出版社では、そのレジュメをもとに検討会議を開き、「出版しても売れる」という方向で意見がまとまった場合、改めて版権エージェントを通じて版権を購入します。

こうして、日本での出版にGOサインが出た段階で、ようやく出版翻訳家の出番となります。

出版が決定した後、編集者はその原書を翻訳してくれる翻訳家を選定し、選んだ翻訳家に一冊分の翻訳を頼むことになる、というわけです。

では、翻訳を任された翻訳家は、以後どのように仕事を進めていくのでしょうか。

原書が手元に届くと、翻訳家はまず何回か原書を通読します。

すなわち、作品全体の構成や内容を把握する作業から入っていくわけです。

依頼された作品がどのような内容のものなのか、どのような雰囲気かをつかんだところで、いよいよ翻訳作業がスタートします。

翻訳作業に入ると、後は翻訳家個人の孤独な仕事となります。

原書の持つ雰囲気を損なわず、しかも日本語で読んだ場合に違和感なく仕上げていく作業は、非常な神経を使うもの。

わからない点があれば辞書を引きまくり、専門家に問い合わせをし、図書館に足を運び、類書を探し出すなど、あらゆる手段を使って調べていかなければなりません。

ときには編集者とも相談をしながら、コツコツと翻訳を行っていくのです。

出版翻訳は一冊の本を翻訳していく仕事であるため、翻訳を必要とするボリュームもとにかく多く、コンスタントに、地道に翻訳をこなしていく必要があります。

一日に原稿用紙10枚以上を翻訳したとして、最低でも2~3ヶ月という期間はかかり、その間ひたすら作品の世界に没頭して原文を日本語の文章に置き換えていく作業が続くわけです。

こうして仕上げられた訳文は、担当編集者のもとにいったん渡ります。

しかし、これで出版翻訳家の仕事が終わったわけではありません。

その後、編集者のチェックが入った原稿が戻ってくるので、そのチェックに合わせて翻訳原稿を作り直す「校正」という作業も必要となります。

場合によっては、何回か校正を繰り返し、内容校正が終了して原稿が印刷に回ると、次にゲラと呼ばれる印刷原稿があがってきます。

ここで、再度誤字や誤植、内容チェックを行ってゲラを印刷所に戻し、実際に本として仕上げるための印刷が始まった段階で、ようやく出版翻訳家の仕事は完全に終了することになるのです。

出版翻訳の世界では、基本的に「出版社から個人の翻訳家へ」というスタイルで仕事が発生するパターンが多く、出版のタイミングが特に重要視されるような本を除くと、翻訳会社などが中間に入るケースはあまりありません。

それだけに、出版翻訳の仕事を希望するなら、翻訳出版を手がけている出版社の編集者といかに太いパイプをつないでおくかが大切な鍵となります。

翻訳の仕事はどう発生する?

| コメント(0)

翻訳の仕事というのは、翻訳家から見るとほとんどが受注という形で始まります。

一部、出版翻訳に関しては、翻訳家が手がけてみたい本を出版社にじかに持ち込んで売り込む、「持ち込み」というスタイルで翻訳の仕事を確保する場合もありますが、全体でいえば本当にごくわずかです。

翻訳の流れを全体で示すと、まず翻訳を必要としているところがあり、そこから翻訳の仕事を請け負って翻訳作業を進めるというのが通常のスタイルとなっています。

翻訳を必要としているところには、一般企業、政府機関、各種団体、出版社、テレビ局、大学、映画配給会社などがあり、請け負う先には翻訳会社、編集プロダクション、番組制作会社、日本語字幕制作会社、広告会社、フリーの翻訳家があります。

みなさんが翻訳家になったとして、翻訳の仕事を手中にするルートとしては、まず2つのものが考えられます。

ひとつは、一般企業や出版社など、翻訳を必要としているところから直接仕事を請け負うスタイル。

もうひとつが翻訳会社や編集プロダクションなどを媒介として翻訳を請け負うスタイル。

このどちらのスタイルで仕事をするかは、手がける翻訳の分野(出版翻訳をやるのか、産業翻訳をやるのか)、翻訳家自身の力量(優秀な翻訳家として有名になれば直接依頼が増えることもある)、そしてフリーランスか、どこかに所属して働くのかによって違ってきます。

スタートは文法から

| コメント(0)

そこで僕は、まず最初に文法書を買ってきて、ひと通り文法のおさらいをすることに決めました。

僕が購入したものは、確か、J・B・ハリスさんが書いたものだったと記憶しています。

多分、大学受験用だったと思いますが、随分昔の話なのでタイトルは思い出せません。

もし手元に残っていたら、どこに線を引いて勉強していたのかが分かって興味深いところですが、残念ながら行方不明です。

僕はギターを弾き始めた小学6年生の頃、実は、チューニングやコードがあることを知りませんでした。

言ってみれば、「音楽の文法」に当たるものの存在を知らなかったことになります。

しばらくの間、何も気にせず耳だけを頼りにギターを触っていたのです。

これは、今から思えばかなり遠回りをしています。

ギターの教則本を見れば基本的なことはすべて書いてあります。

それなのに当時は、教則本から学ぶということすら思いつかない程、目の前の楽器とその音に夢中だったのです。

そういう経験から、英語の勉強で同じような遠回りを繰り返したくないと思い、英文法からやり直すことにしたのです。

文法書を読むにつれて、昔学校で習ったことがよみがえってきました。

当時の英語の先生や級友のことを思い出しで隈かしい感じで一杯でした。

考えてみると、僕らの時代は英語を専門に教える先生がいませんでした。

僕が生まれ育った舞鶴では、中学でも高校でも英語の先生は他の教科も教えていました。

現在は英語を母国語とするアシスタントの先生もいて、英語を学ぶ環境は昔に比べると雲泥の差です。

僕は、先ほど言ったように、学生時代ろくすっぽ勉強しなかったので、英語に対して不自然な文法知識などは残っていませんでした。

それでも、「have+目的語+過去分詞」というような公式だけはしっかりと頭にこびりついていました。

doの過去形はdidだということも忘れていませんでしたが、早い話、英語の勉強は「ゼロ」からの再出発だったのです。

産業翻訳の分野も、とってもひとことでは言い表せないほど多様なジャンルを含んでいます。

実務翻訳、ビジネス翻訳という呼び方もあるように、産業翻訳はあらゆる産業で必要とされる翻訳すべて指しており、ザッとあげるだけでも契約書やビジネスレター、レポートといったビジネス文書をはじめ、コンピュータのハードおよびソフトのマニュアルや仕様書、産業機械の説明書などがあります。

また、特許申請書や学会での研究論文といった専門性の特に高い文書を翻訳するのも、産業翻訳の一分野となっています。

実は翻訳業界において翻訳ニーズの約90%を占めるのが、この産業翻訳です。

ビジネスの世界は今やグローバルをベースに展開しており、海外の国々を相手にさまざまな取引が行われています。

そこでは当然、外国語で書かれた文書が日常的に飛び交い、外国語を日本語に、あるいは日本語を外国に置き換えるという作業が必要不可欠です。

企業によっては、社内で翻訳部門を抱えて対応しているところもありますが、外部の翻訳者に翻訳を委託するケースのほうが圧倒的に多く、優秀な産業翻訳家はどこでも引っ張りダコとなっています。

ほかの翻訳分野と比較しても、産業翻訳を仕事の中心としている翻訳家の数は多く、しかもビジネス界ではまだまだ産業翻訳家が不足しているのが現状といいます。

その理由の主たるものは、産業翻訳がかなりの専門知識を必要とする分野であること、そして必要とされる翻訳物の数が多いうえに納期までのスパンが短く、大量の翻訳家を必要としなければ数がこなせないことの2点があげられるでしょう。

詳しくは後章で説明しますが、産業翻訳の分野は出版翻訳やメディア翻訳と比較しても守備範囲が非常に広く、しかもそれぞれに高度な専門知識を必要としています。

たとえば、ビジネスでやり取りされる書類だけを見ても、企画書や研究成果の報告書、ビジネスレターに契約書、製品マニュアルや仕様書、クレーム文書、海外向け会社案内、年次報告書、輸出入に関わる各種書類などがあり、企業の業種もコンピュータ関連からメーカー、金融、医薬関係と多ジャンルにまたがっています。

また企業ばかりでなく、政府の外郭団体や大使館といったところでもスピーチ原稿の翻訳や会議の議事録の作成、自国紹介文の作成などには翻訳業務が必要となり、大学の研究論文や学術情報のような分野でも翻訳を必要とする場面はたくさんあります。

このように、海外を相手に何らかのやり取りが行われるところでは必ず産業翻訳家が必要とされ、今後も活躍の場が減ることはありえないといってよいでしょう。

手がけた本に訳者名が記載されたり、翻訳した映画に字幕翻訳家として名前が掲載されたりする出版翻訳家やメディア翻訳家と比べ、産業翻訳家には翻訳者自身の名前が表に出る機会はありません。

翻訳の中でも地味な仕事ではありますが、産業翻訳家は日本の産業を支えるうえでなくてはならない、縁の下の力持ち的な存在であるともいえるのです。

ニーズ急増中のメディア翻訳

| コメント(0)

映画好きで英語好きの人が一度は憧れる仕事といえば、洋画のセリフを翻訳する字幕翻訳家ではないでしょうか。

ところがこの字幕翻訳家、昔も今も相変わらずの狭き門です。

同じく映画に関する翻訳の仕事には、もうひとつ吹き替え用の翻訳という仕事もあります。

字幕翻訳には文字数やセリフの区切り方などに難しい制限が設けられていますが、吹き替え用の翻訳にも制限・制約があるとはいえ、その基準は字幕翻訳に比べると若干ゆるいものとなっています。

さて、メディア翻訳の中には、このような字幕翻訳や吹き替え翻訳をはじめとして、舞台演劇の翻訳、新聞・雑誌記事の翻訳、近年急増中のゲームソフトの日本語版制作などが含まれます。

分野としては映像、新聞・雑誌、舞台、歌詞対訳、マルチメディア関連に分けられますが、海外の演劇やミュージカルを翻訳する舞台翻訳と洋楽の歌詞を翻訳する歌詞対訳については、ほとんどといっていいほど需要はありません。

その代わり、ここ最近になって翻訳家のニーズが急激に高まってきているのが映像翻訳の分野です。

ひとくちに映像といっても、その内訳はさらに細かく分類することができます。

たとえば、映画の中でも劇場用映画をはじめ、最近ではビデオデッキの普及に伴う家庭用ビデオ向けの映画もあり、さらにはテレビ放映用の映画というものもあります。

すなわち、映画に限って翻訳家の仕事を考えてみても、劇場用映画の字幕翻訳のほかに、テレビ用映画の吹き替えに使う翻訳や、ビデオ用の字幕翻訳、吹き替え翻訳といった仕事があるわけです。

これらの映像翻訳の中で、近年需要が急増しているのが、デジタル衛星放送の台頭に伴う海外テレビ番組の翻訳です。

1991年に「NHK第1」「WOWWOW」といったアナログBS放送がスタートし、96年にはデジタルCS放送の「パーフェクTV」が放送開始。

以後、97年に「スカイパーフェクTV」、98年には「ディレクTV」が続々と放送を開始し、テレビチャンネル数200超という多チャンネル時代が到来しました。

近い将来、デジタルBS放送がスタートする計画も持ち上がっており、テレビチャンネル数はますます増加していくと考えられます。

デジタル放送が増えたことによって、海外からの輸入番組も大幅に増加し、既存の映像翻訳家だけでは到底翻訳が間に合わないという状況が生まれつつあります。

したがって、新人翻訳家の活躍の場も確実に、しかも急激に拡大しているわけです。

また、メディア翻訳において翻訳家の必要性が高まっているのは、これら映像ジャンルだけではありません。

マルチメディア関連を見ても、海外で制作されたゲームソフトを日本語版に置き換える「ローカライズ」という作業や、海外制作のCD-ROMを日本語化する作業、インターネットのホームページの翻訳といったジャンルがあります。

もちろん、日本で制作されたゲームソフトやCD-ROM、ホームページを外国語に翻訳する作業も翻訳家の仕事です。

同じように海外の新聞・雑誌の記事を翻訳したり、反対に日本語の記事を外国語に翻訳する仕事というのも、メディア翻訳の範疇に入ります。

マルチメディア時代の本格化、各種情報の重要性の高まりなど、これからの社会状況を考え合わせても、メディアの世界で翻訳化が必要とされる傾向はますます増えていくといってもよいでしょう。

翻訳の分野は、細かく分け始めるとキリがありません。

そこで、ここでは「出版翻訳」「メディア翻訳」「産業翻訳」の3つの分野に大別し、それぞれの概要についてふれたいと思います。

ここ近年、国内の出版物の中で海外翻訳本の占める割合が増えてきたように感じます。

特に最近では、エンタテインメント系やビジネス系のジャンルが急増しているようです。

出版翻訳のもともとは、学者や大学教授といった肩書きの人たちの手がける学術書の翻訳でしたが、現在では「文化」の伝達を背景として、さまざまなジャンルの海外本が日本に入ってくるようになりました。

異文化にふれる楽しさを覚えた人や、海外ビジネスのノウハウを生かそうとする人々が数を増すにつれ、読者のニーズに応えようと、出版する側も積極的に翻訳本の出版枠を広げています。

それに伴い、海外本の翻訳を行う出版翻訳家の需要も、少しずつ高まってきました。

ところで、翻訳家という言葉から連想されるイメージとして、字幕翻訳家と並び多くの人が思い浮かべるのが、この出版翻訳家ではないかと思います。

出版翻訳の世界は大きく「文芸翻訳」と「非文芸翻訳」の2つに分けられます。

文芸として取り扱われるものには純文学、ノンフィクション、ミステリー、ホラー、サスペンス、SF、ファンタジー、ロマンス、児童文学、絵本など、非文芸として取り扱われるもには図鑑、美術書、学術書、ビジネス書、一般教養書などがあり、そのジャンルも政治経済から科学、哲学、軍事関係、人生論的なものと多種多様です。

文芸も非文芸も関係なく、幅広く出版翻訳に携わる翻訳家もいますが、文芸翻訳を主とする翻訳家は「文芸翻訳家」、非文芸翻訳を主としている翻訳家は「出版翻訳家」と名乗っているケースが多いようです。

この出版翻訳の大きな特徴は、まず何といっても翻訳すべき原文が大変な量にのぼることといえるでしょう。

翻訳した後の原稿が400字詰め原稿用紙で600枚以上になるといった場合も珍しくなく、それだけに翻訳期間もかなりの長丁場となります。

さらに出版翻訳では、原文をしっかりと読み込んで作者の持つ雰囲気をとらえ、本の内容をきちんと理解し、把握していかなければなりません。

また、日本語で書かれた書籍と遜色のない仕上がりになっていることも必要とされ、表現力や文章力、語彙力といったものが問われる分野でもあります。

それだけに、翻訳歴の浅い新人翻訳家が、いきなり一冊の本を翻訳させてもらえるチャンスはなかなかなく、下書きの翻訳原稿を書く「下訳」や、原書を読んで粗筋と感想をまとめる「リーディング」といった下積み段階を経て、丸々一冊の翻訳をまかされていくというケースが大半です。

しかし、「この本を翻訳してみませんか?」と以来を受け、3ヶ月なり半年なりの期間を経て翻訳した本が出版されれば、その本の表紙には堂々と、翻訳家として自分の名前が掲載されるという無常の喜びも手にできます。

翻訳業界の中ではまだ門戸の広い分野とはいえませんが、エンタテインメント系のジャンルが着実に売り上げを伸ばし、海外のベストセラーが次々と日本に上陸している現在の状況を見ると、出版翻訳家のニーズも今後増えていく可能性が高いでしょう。

留学生とのつらい食事

| コメント(0)

僕は大学へ進学しなかったので、学校で英語を勉強したのは中学と高校の6年間だけです。

しかも、在学中はギターに狂っていて、真面目に勉強した思い出がありません。

ただ、英語の授業にやたら難しい漢字が出てきたことだけは、はっきりと覚えています。

過去分詞、現在完了、不定詞、関係詞、従位接続詞、等々。

見ているだけでも頭が痛くなってきます。

そんな僕が英語をやり直そうと思ったきっかけは、20年くらい前、日系二世の友人がいて(日本語は日本人並)、その友達の留学生がシグナルのコンサートを見にきたことでした。

会場は忘れもしない、京都勤労会館でした。

コンサートが無事に終わって、2人の留学生と一緒に食事に行くことになりました。

居酒屋しかないということになり(勝手に決めた)、某チェーン店へ向かいました。

店に到着するまでの会話といえば、「ナイスツゥミーチュー!」だけです。

たった2~3秒です。

そして悲しいことに、この時すでに僕が使える英単語の数は底を尽いていたのです。

あとはもう、関西弁と笑顔で勝負するしかありません。

そうは言っても、彼らはほんの片言の日本語しか話せません。

片言の日本語しか話せない留学生と、片言の英語しか話せないミュージシャン。

あとは、下を向いてひたすら食べることだけです。

この時ほど、「あ~、英語が話せたらなあ…」と心の底から思ったことはありませんでした。

考えてみると、それまでろくに英語を勉強していないので、英語がロから出てこないのは当たり前です。

何を食べたいのかという簡単なことさえ聞けなかったので、かなり情けない思いをしました。

そんな、気まずい雰囲気の中で鍋料理をつつきながら、「英語ぐらいできなあかん!」と僕は心の中で叫んでいたのです。

ところで、翻訳という仕事は映画の世界にだけ存在しているわけではありません。

出版物やテレビ・ラジオといったメディアをはじめ、ビジネスの世界にも数多くの翻訳の仕事があります。

翻訳という言葉を聞いて思い浮かぶジャンルだけでも、映画、ビデオ、書籍、雑誌、各種マニュアル、広告…ときりがありません。

また書籍ひとつとっても、恋愛小説、純文学、ノンフィクション、ミステリー、学術書、絵本、図鑑…と、これまたジャンルは多岐にわたります。

最近では家庭用ビデオデッキの普及やデジタル衛星放送の充実といった要素も加わり、ビデオ翻訳家や海外テレビ番組の翻訳など、翻訳を必要とする分野は広がっていく一方です。

おそらく、いったん翻訳の世界に足を踏み込んだら、その仕事内容と形態の多様さに誰もが驚くのではないでしょうか。

それだけに、翻訳家として手がける仕事も幅広くなりつつあり、翻訳の仕事を分類するにも単純明快な線引きが難しくなってきました。

そこで本書では、翻訳に必要な技術や技能がある程度似ているもの、求められている資質をはじめ何かしら共通項があるものを集めて、大きく3つの分野に大別し、以降の構成を進めていきたいと思います。

まずひとつめの分野が、海外書籍の翻訳を中心とした「出版翻訳」、そして映画やビデオをはじめ、新聞・雑誌、CD-ROM、舞台など、あらゆるメディアでの翻訳をさす「メディア翻訳」、最後がメディアを除く、すべてのビジネス活動に必要とされる翻訳を網羅した「産業翻訳」です。

この3つの分野は、"翻訳"という仕事を進めていくうえでたい切な基本的要素においては共通していますが、求められる技術や技能、受注の方法、ギャランティの決め方、必要な適性・資質といった細かな面で若干の違いがあります。

「翻訳家になりたい」と考えているみなさんには、ぜひ「どんな翻訳家になりたいのか」「どんな分野の翻訳を手がけたいのか」を見つけていただきたいと思います。

そして、手がけてみたいジャンルを見つけたうえで、翻訳家への道のりをスタートさせることをおすすめします。

英語代筆クラブ式翻訳の仕事

| コメント(0)

ひとくちに翻訳といっても、その種類はさまざま。

ここでは、翻訳家を目指す前の基礎知識として、翻訳とはどういう仕事か、どんなジャンルがあるのかをご紹介します。

翻訳ってどんなことをするの?

ポップコーン片手に大きなスクリーンを前にして、大迫力の画面を楽しむ。

劇場に足を運んで映画を観る醍醐味のひとつは、あたかも自分がその映画の主人公になったかのような臨場感を味わえることです。

スクリーンに登場するヒーロー、ヒロインに感情移入しながら、ときには大爆笑し、ときにはハラハラし、そしてときには涙を流して映画を堪能する。

見終わった後にはかすかな余韻が残り、それがまた映画鑑賞の心地よさを何倍にもしてくれます。

でも洋画の場合、スクリーン上で交わされている会話はすべて外国語。

爆発的大ヒットとなった『タイタニック』にしても、全編オール英語のはずなのに、なぜあんなに多くの人々が感動したのでしょうか?もちろん、「言葉なんかわからなく手も、主役のレオ様が超ステキだったから」とおっしゃる方もいらっしゃるでしょうが、「あぁ、すばらしい映画だった」と大満足するには、やはりストーリーがわかっていなければなりません。

みなさんならとっくにおわかりだろうと思いますが、洋画のストーリーや会話の妙を理解して楽しむには、何といってもスクリーンの端に置かれている"字幕スーパー"が必要不可欠なのです。

この"字幕スーパー"を作成しているのは、字幕翻訳家と呼ばれている人たちです。

有名どころとしては、故・清水俊二さんや戸田奈津子さんなどの名前があげられますが、字幕翻訳家の主な仕事は洋画のセリフやナレーションを日本語に置き換えることといえます。

翻訳家を目指すみなさんの中には、この字幕翻訳家のような仕事がしたいと考えている人も多いかもしれませんね。

翻訳と言うのは、簡単にいってしまえば外国語を日本語に、あるいは日本語を外国語に置き換える作業です。

しかし、だからといって英語の授業でやったような英文和訳(和文英訳)と同じものと考えたら大間違い。

翻訳して訳すと書いて翻訳としていますが、単に外国語と日本語を同じように置き換えれば"翻訳"になるのかというと、実はそうではありません。

たとえば、「The game is pure thrill」という英文があるとします。

単純に訳せば「ゲームは純粋なスリルです」となりますが、これでは「まったく何をいっているのやら…」といった感じです。これがまさに英語代筆クラブ式です。

「pure thrill」を「純粋なスリル」と直訳するのは、英語を習いたての中学生でもできること。

翻訳物と呼ばれる代物にするためには、まず「純粋なスリルとは何か?」を考えなければならないのです。

ここでいう「pure thrill」とは、ゲームの性格を表現しているものだということはわかります。

したがって「純粋なスリル」というよりも、「純粋にスリルだけ」と解釈することが必要になってきます。

そしてもう一歩進めて、違和感のない日本語に置き換える術を探すことも必要になってきます。

いかがですか?うまい訳は見つかりましたか?例をあげると、「The game is pure thrill」は「ゲームはスリル満点です」と訳すことができます。

また、「The game」となっていることから、不特定多数のゲームについて述べているのではなく、ある特定のゲームについて記されているものだということもわかります。

したがって、前後の文章とのつながりによっては、「このゲームはスリル満点!」とか、「実にスリリングなこのゲーム」といった訳し方が考えられるわけです。これも一種の英語代筆クラブ式です。

さらに、これが映画のセリフのひとつであれば「スリル満点のゲームだったぜ!」「すっごくスリリングなゲームだったわよ!」など、口語体の日本語に置き換える必要も出てくるのです。

このように、原文が伝えたいことをきちんと把握し、理解して、その意図が伝わるように違和感のない日本語の文をつくること、これがみなさんの目指す翻訳家の仕事といえるでしょう。

産業翻訳の受注から納品まで

| コメント(0)

産業翻訳の仕事の発生から納品までのルートについては、次の3つのパターンがあります。

ひとつめは、フリーランスの翻訳家として翻訳会社に登録をしておき、随時仕事を受注しながら翻訳を行っていくパターン。

ふたつめが、翻訳専門の部署を設けている企業や翻訳会社の社員として働き、翻訳を請け負うパターン。

最後がフリーランスの翻訳家として、翻訳を必要としている企業から直接仕事を請け負うパターンです。

この中で最も一般的なのは、最初にあげた翻訳会社から仕事を受注するパターンです。

おそらく、現在産業翻訳家として活躍する人のほとんどが、フリーの翻訳家として翻訳会社に登録し、仕事をもらうという形をとっているのではないかと思います。

そこで、ここでは翻訳会社を経由して行う産業翻訳の流れをご紹介しましょう。

翻訳会社とは、翻訳を必要としている企業と、実際に翻訳を行う翻訳家との中間に位置するコーディネイターのような存在の会社です。

なかには、出版・映像分野の翻訳を手がけているところも存在するのですが、翻訳会社が扱う分野は産業翻訳がメインと考えていただいてよいでしょう。

自社内に翻訳専門の部署を設置している翻訳会社もありますが、産業翻訳の場合、発生する仕事量も多く、ほとんどの翻訳会社が外部の翻訳家を活用して仕事を回しています。

また、翻訳会社にはコーディネイター、リライター、チェッカーといった業種の人々がいて、訳文のレベルアップと翻訳家のサポートを行っています。

企業(クライアント)から翻訳の仕事を依頼された翻訳会社では、その内容や納期をクライアントに確認したうえで、自社に登録されている翻訳家の中から適任者を選定します。

選定基準は、法律関連のものであれば法律に強い翻訳家、コンピュータ・マニュアルであればコンピュータの知識がありテクニカルライティングにも優れた翻訳家など。

専門的な知識が必要とされる産業翻訳では「このジャンルに強い」という翻訳家を選んで仕事の依頼を行う場合が大半です。

このとき、クライアントとのやり取りや翻訳家の選定・発注を行うのが、コーディネイターという職種の人々の役割となります。

依頼を受けた翻訳者は、内容に沿って調べ物をしたり、専門用語や適切な表現を探しながら翻訳を進め、訳文を翻訳会社へと戻します。

その後、翻訳会社の中で、原文と訳文を照らし合わせて原稿のチェックを行うチェッカーや、訳文をより適切な文章に書き直すリライターなどの手を経て、完全な翻訳原稿が出来上がります。

仕上がった翻訳原稿が無事クライアントの手元に届けば、翻訳文の納品が完了となるわけです。

産業翻訳もメディア翻訳と同様、翻訳に割ける時間が短いのが特徴です。

原文の量や内容の難易度など、さまざまな要因はあるものの、1週間や10日といった指定された期間内に訳文を戻さなければなりません。

それだけに「速くて、正確」であることが、産業翻訳家に求められる最低限の資質といえます。

通訳・翻訳は縁の下の力持ち

| コメント(0)

一五号の時になると月面自動車での「月面旅行」が行なわれた。

一六号と一七号ではさらに長時間の月面滞在と月面自動車にょる調査ができた。

テレビカメラを自動車に乗せて、視聴者もその自動車に乗って移動する感じを、少しは味わうことができたのである。

またテレビカメラを月着陸船に向けたまま作動させ、月着陸船が宇宙飛行士を乗せてロケットで打ち上げられて上昇する模様を月から放送した。

通駅者冥利ところが、この間の三年半にわたるアポロの一連の中継放送を通じて痛感したことは、一般に、人びとは画期的な科学技術の進歩にすぐ慣れてしまうということだった。

人類史上初の人間による月面活動の興奮は、きわめて一時的なもので、一五号で人間が月の上を自動車旅行できるようになっても、一般の関心は半減していた。

科学者にとってはアポロの一つひとつの飛行は、新しい事実を月で発見したり資料を持ち帰って宇宙の秘密を解明する鍵を与えることなどが、興味の焦点となっていた。

しかし、一般には類似の飛行と月面活動の繰り返しのように映ったらしい。

ところが、ある晩、知人の英語代筆クラブ所属の通訳・翻訳者は当時勤務していたアメリカ大使館からバスに乗って家へもどる途中、バスのなかで向かいあわせにかけていた一人の和服姿の老婦人が、知人の英語代筆クラブ所属の通訳・翻訳者をじっと見つめているのに気がついた。

知人の英語代筆クラブ所属の通訳・翻訳者は自分のネクタイでも曲がっているのかと思い、それに手をつけたり、目をそらしてきまりの悪い気持ちでいた。

やがてバスの乗客が少しへったとき、その婦人が立ちあがって知人の英語代筆クラブ所属の通訳・翻訳者の前にやってきた。

そして、「失礼ですが、アポロの同時通訳をテレビでなさった方ではないですか」と知人の英語代筆クラブ所属の通訳・翻訳者に聞くのである。

知人の英語代筆クラブ所属の通訳・翻訳者は「はあ、NHKでやった者ですが」と返事をすると、その老婦人は知人の英語代筆クラブ所属の通訳・翻訳者に向かっておじぎをした。

「どうも有難うございました。生きているうちに人間が月に立つなんて、まるで夢のようなことでした。

それが全部あなたのおかげで、よくわかりました。一生の思い出になりました」というのである。

知人の英語代筆クラブ所属の通訳・翻訳者はこの老婦人の心のこもったことばによって、あのスタジオの強烈な照明のなかで汗を流しながら何時間も同時通訳した苦労を一瞬にして忘れてしまうことができた。

いまでも思い出せば目頭が熱くなってくる。

英語代筆クラブ所属の通訳・翻訳者の仕事は縁の下の力持ちのようなものである。

仕事をした後に文句をいわれなかったら、一応満足してもらったと考える。

なかには、生半可な外国語の知識しかもっていない人が、英語代筆クラブ所属の通訳・翻訳者のことばを批判する場合がある。

そういう批判に反論することを差し控えるのが苦痛の場合もあるが、それにも耐えなけれぽならない。

長年通訳をしている者は、だれでもこのような経験をしているだろう。

事故

| コメント(0)

アポロ12号の事故アポロ13号の一連の放送は途中まで順調だったが、月に近づきはじめたときに司令船に動力を供給する機械船の中の第二酸素タンクが突然爆発した。

「ヒューストン、問題が起きた」と落ちついた声でスワイガート宇宙飛行士が飛行管制センターに伝えてきた。

すぐにヒューストンの管制センターが行動を起こした。

交信を交わしながら問題の原因と規模が確認され、これからどうやって三人の宇宙飛行士を無事帰還させるかが検討された。

第二酸素タンクの爆発の勢いで第一酸素タンクも損傷して酸素がもれるようになり、どちらのタンクからの酸素の供給も不可能なものになった。

電力の主要供給源となっていた燃料電池も、酸素不足で機能が失われてしまった。

問題は残りの電池と貯蔵した酸素だけで、どうしたら地球まで帰れるかということであった。

なお、三人の呼吸によって発生する二酸化炭素を処理する水酸化リチウム容器も効率的に使わないと、中毒死する危険性があった。

地球上では、ヒューストンの管制センターとアポロの打ち上げを行なうフロリダ州のケネディセンターで、それぞれ宇宙船内の状況を再現しながら調査チームが三人の生存法を検討し、実験を行なった。

司令船にはわずかの電池しかなく、結局、三人とも月着陸船に移り、電源と酸素とで生命を維持することになった。

二人の宇宙飛行士が二日間利用する予定で装備されていた月着陸船内で、三人の宇宙飛行士が四日間も生存しなければならないという状況になったのである。

宇宙服の「携帯用生命維持装置」や月着陸船内の酸素の利用、司令船内の水酸化リチウム容器を月着陸船の空気調整装置に連結して二酸化炭素ガスを除去しようという試みや、電源の慎重な配分など、さまざまな新しい実験が地球上で行なわれ、その結果をもとにつぎつぎに宇宙飛行士たちへ指示した。

さらに機械船のロケット推進はまったく不可能になっていたので、月着陸船のロケットを、月に降下着陸したり離陸上昇してドッキングする本来の目的のためでなく、月の周囲を回り、地球へ向かって月の引力から脱出帰還するためのエネルギーに利用する方法も考、兄てみなければならなかった。

そして、その複雑な軌道に宇宙船を運行させる測定法や操縦法も、考案しなげればならなかった。

こうした事情を知らされたNHKは、その劇的な進行状況を報道しながら、関係者はみな緊張の連続であった。

やがて三人は地球に向かい、大気圏に突入する四時間前に損傷した機械船を切り離した。

そのあと月着陸船から司令船に無事乗り移り、月着陸船を切り離し、司令船は大気圏に突入して太平洋に無事着水した。

以上の状況、とくに大気圏に突入する少し前からの実況の生中継放送は、アポロ11号に匹zo1敵する劇的な出来事であった。

あるいは、それ以上の劇的なことといえよう。

この生中継は、いままでなんの事前の準備もなく、完全にぶっつけ本番の人命救助活動の放送だったので、同時通訳した知人の通訳・翻訳者はもちろん、スタジオのスタッフもみな緊張し、成功したときには心の底からその喜びを分かちあったものであった。

それからアポロ一四号で、はじめて月面でのカラーテレビによる放送があり、今回はコンラッドの失敗のようなこともなく、カメラを太陽に向けるときはきちんとレンズにキャップをして移動させた。

コンラッド

| コメント(0)

宇宙飛行に用いる特殊用語集には、正式な名称とその略称とがあり、場合によってはさらに愛称のような単語まであった。

幸いにNHKの解説委員は、一つひとつのことばの内容をていねいに説明していたので、その解説によって足りないところが、ずいぶんと一般には理解されたようだ。

知人の英語代筆クラブ所属の通訳・翻訳者が通訳した単語が日本語で耳慣れない単語の場合なども、解説委員は宇宙飛行士の交信の合い間を見ては、必要な解説を入れてくれた。

アポロ11号の場合、宇宙船内で使ったテレビカメラはカラーカメラであったが、月面で使ったカメラは白黒の画像を写すものであった。

そのつぎのアポロ一号は、はじめて月面でもカラーカメラを使うことになったので、月面が天然色で実際にどのように見えるか、放送局も視聴者も楽しみにしていた。

一号の船長はチャールス・コンラッドであった。

コンラッドは「ピート」というあだ名で呼ばれる陽気な小柄の宇宙飛行士だった。

彼は月面に無事着陸して月着陸船から出て、はしごを降りたとき、「これから月面へ踏み出してみる」といって、はしごから離れた。

それを日本語で、「どっこいしょ!アームストロングにとっては小さな一歩だっただろうが、私には大きな一歩だった」と知人の英語代筆クラブ所属の通訳・翻訳者が通訳した。

その「どっこいしょ」があとになって、いろいろなコメントや質問の種になった。


「すべて順調」は英語でどういうのかとの問い合わせをもらったのと同じように、「どっこいしょ」は英語でどういったのか、といわれたのである。

同時通訳のときは瞬時に状況に合うことばを決めなければならないから、あのとき、コンラッドの気持ちを察して知人の英語代筆クラブ所属の通訳・翻訳者の口から自然に出た訳であった。

コンラッドは、月面での体験があまりにもすばらしいので、子どものようにはしゃいでいた・そして待望のテレビのカラーカメラを作動させて、「月の模様をお見せしましょう」といいながら月の風景をちょっと見せてくれた。

ところが「ここでカメラを固定しておこう」といって、カメラを動かしたとたんに画像がなくなってしまった。

コンラッドはカメラのレンズにキャップをつけずに、一瞬太陽に向けたため、強烈な直射光線がカメラの感光面を焼きつくしてしまったのである。

それからしばらくヒューストンとやりとりして、カメラの機能を復活させようとしたが、だめだった。

予備のテレビカメラは着陸船外に設置していなかったので、アポロ一二号で楽しみにしていたカラーのテレビ放送を見ることができなかった。

その翌年アメリカへ出張したとき、全米テレビ科学芸術アカデミーが、各種テレビ賞(通称「エミー賞」)の授賞式をはなぽなしく行なっているのを中継で見た。

そこで、「テレビ史上もっとも短いカラーテレビ番組の放送に貢献した」ということで、ピート・コンラッドに「特別賞」が授与された。

コンラッドの失敗をこうしたユーモアで軽く茶化し、またそれを陽気に受けとめる当のコンラッドを見ていると、いかにもアメリカ人らしいと思っだものである。

「すべて順調」

| コメント(0)

アポロの中継番組などは、事前の練習もな丸いきなり本番にはいる性質のものなので通訳もやりなおしはきかなかった。

録画の再放送のときは、多少の調整は可能であったが、生中継はそうはいかない。

交信も雑音と歪みがひどく、音量の不足や意味の不明などに悩まされながら通訳したので、全体を通していえば満足できる通訳とはいえなかったと思う。

宇宙飛行がうまく進行していたり、宇宙船の各装置の調子がよいときは、宇宙飛行士が報告した。

それを知人の通訳・翻訳者は「すべて順調」と通訳した。

あまり「すべて順調」と連発したので、一時そのことばが小さな流行語にまでなった。

しかし、知人の通訳・翻訳者の通訳の調子は、「すべて順調」とはとてもいえなかった。

アポロ飛行は、それまで人間が行なったことのない実験であったから、ロケットの各部品や宇宙船の複雑な装置、宇宙飛行士の生命を守る生命維持装置の各部品、その他いろいろな地上設備や飛行作業などについては、従来なかった新しい名称が多かった。

もちろん、それらはすべて英語である。

一般のアメリカ人の場合でもその英語の意味がわからないことが多かった。

そこで、アポロの飛行が行なわれるたびに、詳しい説明書が報道機関用として発表された。

タイプライターで打った一五〇ページから二五〇ページの長文の図面入りのものであった。

それには打ち上げ前の準備作業から帰還後の処置まで、飛行の計画と時間表、機械設備、通信装置、宇宙飛行士たちの予定行動、食糧、その他の関係技術用語の定義などがのっていた。

そういったものを事前に読み、新しい名称や技術用語の日本語訳をNHKのスタッフと相談して決定した、また月そのものについて無知であったために、本や地図を勉強した。

それでも説明書に出ていない用語が飛び出してくることがあって、そういうときには原語の意味を察して自分勝手な訳をしなけれぽならなかった。

月と天体の誤訳

| コメント(0)

アメリカからニュースの電報文がきていて、その電文によると、アームストロングの第一声は

(「これは人間にとっては小さな一歩だが……人類にとっての巨大な飛躍である」)という一節であった。

七時のニュースの時は、録画の再放送であったから、アームストロングの第一声を全部通訳することができた。

それでも、生中継のときに、その声を全部聞きとれなかったことは残念であった。

ところが、何年か後になってアメリカ人から聞いた話によると、当時アメリカでアポロのテレビ放送の解説者となっていたウォルター・クロンカイトも、やはり聞きとれなかったということであった。

知人の英語代筆クラブ所属の通訳・翻訳者は少しなぐさめられたような気がした。

ウォルター・クロンカイトは、アメリカでもっともすぐれた有名なニュース・キャスターといわれていたが、そのクロンカイトがヒューストンの特設スタジオで聞いても、「なにをいったのか」と他の出演者にたずねたほど、月から送られてくる宇宙飛行士の声は不鮮明であった。

その後、彼が来日したとき直接聞いてみたが、「よく覚えていない」とのことであった。

交信は、ヒューストンから何ヵ所もの中継を経て、ふたたび通信衛星による宇宙中継によって日本に送られる。

それが日本の地上局で受信され、また数ヵ所の中継所を通過してようやくNHKのスタジオに入ってくるのである。

どんなに完壁な中継設備であっても、中継ごとに生じた微細な歪みは避けられない。

知人の英語代筆クラブ所属の通訳・翻訳者の耳に入った宇宙飛行士たちの声は、クロンカイトに聞こえる声よりは、もっと歪んでいたはずである。

月面活動を無事終了した三人の宇宙飛行士が司令船で地球へ帰る途中も、司令船内からテレビでの中継放送を行なった。

それを、NHKのスタジオでテレビ画面を見ていたときのこと、丸い天体が映し出された。

ヒューストンは「それは地球かな」といいながら、アームストロングに「なにかコメントしてくれ」と要求してきた。

アームストロングは比較的無口な人だから、テレビカメラが天体を映していても、何もいわず、それまでは黙って画面を送っていたのである。

そこで、ヒューストンの要求に従って、「あそこの真中あたりが知人の英語代筆クラブ所属の通訳・翻訳者たちの到着の場所です」という意味のことをひと言いった。

知人の英語代筆クラブ所属の通訳・翻訳者はそれを日本語で、「その真中あたりがこれから地球に着水する場所です」と通訳した。

ヒューストンからさらに話を続けるように要請されたので、アームストロングは「それなら」といって、カメラのズームレンズを操作し、天体がしだいに小さくなるように映し出した。

そして「いま、あの天体が遠のいていく模様をお見せしたのは、知人の英語代筆クラブ所属の通訳・翻訳者たちが、その天体から飛行していることを象徴したかったためです」と説明した。

びっくりした知人の英語代筆クラブ所属の通訳・翻訳者は、「……天体、すなわち月……」と強調して、あわてて訂正した。

最初は地球のように見えたし、ヒューストンも「地球かな」といったものだから、「到着の場所」を、太平洋と考えて、「着水する場所」と通訳してしまったようだ。

とにかく、地球と月を間違えたのは、これが生まれて初めてのことであった。

アームストロングの一歩

| コメント(0)

アームストロングの第一声さて、イーグルが無事着陸してから二人の宇宙飛行士は数時間睡眠をとる予定になっていた。

日本時間では、月曜日の早朝であった。

知人の通訳・翻訳者たち出演者は、宇宙飛行士が寝ている間、こちらも少し睡眠をとることにして、それぞれ別室に移って仮眠をとりはじめた。

うとうとしているうちに、知人の通訳・翻訳者はゆり起こされた。

「アームストロングは睡眠をとらずに、ただちに着陸船の外に出たがっていて、ヒューストンもそれを承知したそうです」というわけである。

しかたがないから起きてふたたびスタジオへ入った。

スタッフ全員がスタジオの準備で忙しく働いていた。

この月面での活動は数時間に及ぶ予定で、そのすべてがテレビ放送される。

月曜の朝から、人類史上初めて人間が月面に立つテレビ放送番組が始まった。

この歴史的な番組に出演する予定になっていた数人の出演者たちは、番組の予定時刻よりはるかに早く出演することになったので、すでに放送が始まってからつぎつぎスタジオに到着した。

番組進行途中で出演者たちが到着して画面に現われるようになったので、総合司会者の鈴木健ニアナウンサーにとっては、大変だっただろうと思う。

しかし、さすがに名アナウンサー、あざやかな司会ぶりで番組を円滑に進行した。

昼近くになっていよいよ着陸船外にアームストロングが出てくることになった。

着陸船に取りつけてあったテレビカメラが作動しはじめて、テレビの画面に着陸船のはしごを降りかけている宇宙服姿のアームストロングが映った。

はしごの最後の段まできて、アームストロングは「これから月面に降り立ってみる」といった。

それから、いよいよ月面の第一歩のときにどういう歴史的なことぽをいうか、スタジオは緊張した空気の中で水を打ったように一瞬しんとした。

アームストロングが月面に一歩ふみだして、というのが知人の通訳・翻訳者に聞こえた。

それを知人の通訳・翻訳者は「人間にとっては小さな一歩……」と通訳したが、その後に続いた声がよく聞こえなかった。

そのあとでオルドリンが月面に降りてきて、月面での活動が始まった。

知人の通訳・翻訳者はヒューストンとのやりとりや月の状況などの報告を同時通訳した。

このアーカイブについて

このページには、2010年5月に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2010年4月です。

次のアーカイブは2010年6月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。