いよいよ月へ着陸するためのアポロ11号の打ち上げが、その年の七月に行なわれることになった。
アポロ11号の月面着陸まずその打ち上げの生中継があった。
ロケットは地球を回る軌道に乗り、司令船と機械船がつながったままでロケット本体から切り離されて一八〇度回転する。
すると司令船の先端が第三段ロケットの先端に収納されている月着陸船とドッキングして月着陸船を引き出し、ロケット本体から離れて月に向かって発射された。
月へ行く途中、何回か生中継放送を行なった。
月の近くまでくると、月の軌道に乗り、ストロング船長とオルドリン飛行士が月着陸船に移った。
コリンズ飛行士は司令船に残り、月着陸船が司令船から切り離されたのである。
月着陸船は月面へ降下しはじめた。
この飛行作業は日本時間の日曜日の夜であった。
月面への降下の様子は、テレビでなくラジオの交信で放送された。
それは降下が月の裏で始まり、テレビカメラは月着陸船の外側に収納されたままで、まだ作動できる状態でなかったためである。
NHKのスタジオでは、コンピュータと連動するブラウン管に月着陸船の線画が現われるようになっていて、実際の着陸状況に合わせて線画が動くようになっていた。
アポロ11号の月着陸船は「イーグル」と名づけてあった。
イーグルが降下しながら、刻一刻、月面からの高度、姿勢、降下速度などを地球のヒューストン管制センターへ報告してくる交信を知人の通訳・翻訳者は通訳した。
月面がしだいに間近にせまってくる状況の報告を聞きながら通訳していたら、突然「プログラム警報一二〇二」ということばが聞こえた。
その意味がわからず、単に「警報!」と通訳したように思う。
それからさらに「プログラム警報一二〇二」とイーグルからいってきた。
ちょっと間をおいて、ヒューストンから「降下を継続してよろしい」と繰り返し指令の声が飛んだ。
「降下を続けろ」と通訳したと思うが、記憶ははっきりしていない。
アームストロングの落ちついた声が、「三百フィートで降下中」「二百フィートで降下中」などと伝えてきた。
やがて月面から十数メートルまで降りた時、「ほこりを飛ぽしている」と報告がきた。
それから「接地灯!エンジン停止」という声が聞こえた。
次に「ヒューストン、こちらは"静かの海"の基地。イーグルは着陸した」との報告が入ってきた。
この降下飛行はほぼ事前の計算どおりであったが、「プログラム警報」といってきたのはこういうわけである。
月着陸船が司令船へ帰還するレーダー用のコンピュータが動かなくなると警報ランプがつくことになっていた。
そのランプがついたために「プログラム警報」と報告してきたのである。
実際にこのコンピュータが動かなかったら、月から離陸して司令船へ帰還できなくなる危険性がある。
そのためにすぐに降下飛行を中止し、上昇して帰還の作業に移らなけれぽならなかった。
ところがヒューストンでは、この警報の意味をいち早く分析した。
イーグルの降下用レーダーの測定値と、司令船に対する帰還用レーダーの測定値が、急速に変わりながら、その測定値がつぎつぎにあまり早くイーグルのコンピュータに送りこまれ、コンピュータのプログラムがそれに応じ切れなかったため、警報ランプがついたと判断したのである。
そのことは、イーグルが降下を続けて着陸に入ることは差し支えないということで、イーグルに降下続行を指令したのであった。
このような判断を急速に下さなかったら、アポロ11号は月に着陸しなかったかもしれない。
しかも、NASAではこうした事態は事前に予測していなかったそうである。
通訳している知人の通訳・翻訳者のような宇宙飛行科学に対する素人には、まったく不明の事態であった。
この小さな事件に関する一連の特殊用語はまったくわからなかったから、ごくわずかに判明した英語しか通訳できなかった。
視聴者のなかには不満を感じた方も多数いたと思う。
